ロマンスの話

バレットの話? 何?録音するのかい?
別に構わないが…

そうだね、彼について語るのは簡単だけど難しい。
彼はとても不思議で興味深い男だ。
ユーモアがあって楽しい面もあれば気難しくわがままな面もある。
自由で快活かと思えば、なかなか人には見せないけれど、それとは真逆の面もある。
彼の眼差しの先には希望もあれば絶望もある。
賢者のようだったり、少年のようだったりもする。

彼はもともとはUCの物理学者だった。
僕とは年齢も近いし、物理学は僕の専門でもある。
彼はどこにいても目立つから、勿論名前は聞いたことがあったよ。
ただ、知っての通り、UCで何かを研究するということは、自由とは程遠い。
何にしても研究には資金が必要だ。そのためには面倒な遠回りを強いられたりもする。
僕はそういったことに慣れていたけれど、彼にとってはUCの研究室はさぞ窮屈だったことだろう。
だから僕と彼が出会うのは、彼がコンステレーションに加わって、そしてあの戦争が終わって、ずっと後のことだ。

一度目は、重力異常について学会で議論したときかな。
もう10年ぐらい前になる。
彼の理論はとても興味深かったけれど、あまりに突飛すぎた。
何十年後かには彼が正しかったと証明されるかもしれないけれどね。
僕はとても楽しい時間だったけれど、彼は面白くなかったと後から聞いたよ。
悪いけど、僕は気になる相手にはいじわるがしたくなるんだ。

次に会ったのは3年前。
L-868の権利をコンステレーションが手に入れた時だったね。
UCのステーションを、伝統ある組織とは言え、外部に託すんだ。
その用途についてはしっかり審議する必要があった。
で、意見を聞きたいということで、技術顧問を努めていた僕が呼ばれたというわけだ。
そこでもバレットとは論戦を交わすことになってね。
それで彼ときたら…ってなんだいその顔は。

ロマンスの話? そっちか。
おじさん同士のそういう話を聞いて何が楽しいんだい。

うーん、そうだね、年を取るとね、ふと寄りかかる相手が欲しくなる時もあるんだよ。
そういうのは対等の相手じゃないと難しい。
過不足なく話し合うことができ、お互いに痛みがこぼれてしまっても、傷つけることのない相手だ。
ちょうど都合のいいところに面倒のない相手がいてくれたってところだね。

ただ「そうだね」と、一緒にいてくれる相手がちょうどいいんだよ。
僕達の痛みは、もうどうやっても取り返しがつかないものだから。
消えることはない。忘れることもない。
でも、誰かがいてくれると、ちょっとだけ楽になる。
彼と一緒にいると、心から笑うことができるし、悪い夢を怖がらなくてもいいんだ。
目が覚めた時に、そうだね、と言ってくれる相手がいるのはいいものだよ。

バレットがどう思っているかは知らないけれどね。
彼はとても不思議で興味深い男だ。


ずっといっしょにいられたらいいね。

ん?それはもちろん。
僕はバレットのことを、愛しているよ。




ロッジに遺されたスレートより。

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