Sheltering Sky



宇宙が私たちのところに降りてきたみたいだ、と、彼は言った。


とても静かでよく晴れた、なんだか痛いくらいに空気が澄んだ冬の夜。
なるほど確かに、そんな夜には、僕たちをあの美しく過酷な宇宙から守る殻は限りなく透明になって、剥き出しで宇宙に浮かんでいるような、そんな心地になる。

君は詩人だね、と、僕が笑うと、彼も微笑んで、冬の大気に白く染まる呼気が混ざり合って、硬い髭の感触を鼻先に感じた。

唇は乾いていて、暖かく、柔らかかった。


不思議だ。

あんなにたくさんの未来が、彼のきらきら輝く瞳の中には存在していたのに。
そこに辿り着くことを、彼は微塵も疑ってなかった。
そうだね、僕も。

不思議だ。


いつの間にか、部屋に彼のものが増えた。
マグカップ。謎の標本。アンティークの天球儀。
遠い景色のスノードーム。古い絵葉書。
独特の柄のシャツとか、僕がプレゼントしたマフラーとか。

大切に、ひとつひとつ梱包して、箱に詰めて、
少し考えて、ロッジの屋根裏部屋にもっていった。
頑丈な箱を選んだので随分と重く、梯子を上るのに苦労した。

屋根裏部屋には大きな天窓がある。
オレンジ色の夕日がそこから差し込んでいて、
埃がまるで星屑のように輝きながら光の帯を彩っていた。

そこには、きっと処分に困ったものが詰め込まれているのだろう。
古ぼけたコンテナ。随分と年代物の宇宙服。壊れた模型。肖像画。雑誌の山。分厚いファイル。どれも埃を被っている。

地下の物置の方がきれいだったけれど、きっとこの箱の中の品々は、彼と、そして僕以外には無意味なものだ。

そして、ここの方が、空に近いし、ずっと安全だ。

天窓の下の日に焼けて黄ばんだコンテナに、少し奥に寄ってもらう。
そこに、箱をおいた。

ラベルには、彼の名前が書いてある。
そっと指で撫でる。
そう。ここなら安全だ。


今夜、旅立つことにした。

あの空の果ての星々の、さらにその向こうに。
きっと僕では辿り着けない。それでも。
星々の果ての果てに、手を伸ばし続けるのが、彼の選んだ道だったのだから。

そのあと、みんなと一緒に夕食を食べて、旅の計画をざっくり話して、それじゃまた、と、ロッジを出ると、そこにはあの日のような星空が広がっていた。
宇宙がまるで迎えに来たみたいに。

少しだけ、身軽な、楽しい気持ちになる。
そうして、僕は、歩き出した。
星々の彼方を目指して。



お題
「キスの日」
「大学教授が」「屋根裏部屋で」「自殺を考える」「話」


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